書籍関連

【病めるときも】三浦綾子のキリスト教的な観点が光る6編の短編集

三浦綾子 病めるときも

僕の好きな作家の一人でもある三浦綾子の短編集の書評です。

『病めるときも』は特にお気に入りの本で、どの話を読んでも心打たれます。

そしてここまで読者の胸をえぐるような容赦ない話の展開には、三浦綾子という作者に対する尊敬と恐怖を感じます。

病めるときも

三浦綾子 病めるときも
作者 三浦綾子
出版 角川文庫
初版 昭和57年8月20日

冒頭で容赦のない話の展開と書きましたが、それも三浦綾子がキリスト教の隣人愛的な思想を強く書き残したいというあらわれなのかなと思っています。

キリストの言う愛がいかに尊いものなのか、難しいものなのかということを考えさせられました。

井戸

旭川と名寄の汽車で、級友の加代に20年ぶりにあった真樹子。

加代の感覚的で愛を理解しない、冷淡な人間観に疑問を感じざるを得ない独特な空気で物語は進行します。愛とはなんたるかを考えさせられるショートストーリー。

対話劇のような淡々とした展開で、後に続く話よりインパクトには欠けるものの、キャラの立った人物描写はとてもキレがあるなと感じました。

世話焼きな三津枝が入院した病室にいた霧子は、幼いながらに多病室の男と逢引きを重ねます。三津枝はそんな世間知らずな幼い霧子を危惧して幾度も注意したが、ついに霧子は妊娠しました。

正常な愛を受けられなかった子供の悲しさと、出し抜く女の狡猾さを描いた作品

愛情を渇望する少女の悲哀をひしひしと感じてきました。

羽音

個人的に一番好きなストーリーでした。そして6編の中で唯一ハッピーエンドに近い形で幕を閉じました。

東京から札幌に赴任した夫婦、妻は東京で生まれ育っていたことから北の大地でホームシックに。

ホームシックに耐えかねた妻は夫を残し東京に帰り、夫は札幌で出会った素敵な女性と新たな恋を実らせようとしていました。

物語のテーマは『幸福論』。夫が新たに出会った素敵な女性は、相当な苦労人で誰よりも清い心を持っていました。

そんな彼女は幸福論という学術体系と、幸福という概念には乖離があると指摘します。妻とうまくいっていない夫との不倫関係から果たして真の幸福を得られるのかという疑問を持っていたのです。

不幸を知らない人に幸福論なんて語れない、そういう意味でヒルティ(幸福論の作者)は不幸だったのかも。幸福な人は本屋で幸福論なんて目に付くでしょうか?」
とても印象的なセリフでした。

彼女も実は夫に惹かれていたが、お互いの本当にあるべき形を見据えて手を引いて立ち去るのでした。

夫婦関係のもろさと、切っても切れない密接さを器用に表現しています。

奈落の声

行商の劇団が夏に訪れた街でのできごと。座長の息子の清志は、母を失ったトラウマを抱えながら力強く生き、旅役者として子役をまっとうしていました。

旅役者の子供が1日~2日と小学校を転々としていく苦労、不満や誤解をうまく言葉にできないもどかしさ。だれもが子供のころに感じたことがあるだろう一種の苦悩を、特殊な環境を通して鋭く追及しています。

子供って本当に自己主張が下手で、伝えたいことをうまく言葉にできないんですよね。そういう経験、あるんじゃないでしょうか。

どす黒き流れの中より

3歳の美津子は父の友人に誘拐されました。それでも素直で健康な心に育った美津子は、真実を何も知らず親想いの子になっていました。

ひょんな偶然から事実関係をすべて知ることになったが、血のつながった家族よりも、愛情の通った育ての親に情が残ります。血縁という一般的家族論にしばられない、物語ですがそれだけでは終わりません。

義父を炭鉱事故で亡くし、病弱な義母を養いながら看護師として勤める生活を送ります。結局義母も肺炎で亡くなり、実の親から幾度となく帰ってこいと便りを寄せられる日々。

その後職場で出会った事務員の男と結婚をして、実の親の家にしぶしぶ帰ることになります。しかし実家では、とあるどす黒き習慣が渦巻いていました。

愛の哀しみを説く、一度読んだら絶対に忘れられない物語でした。なんというかえぐい、人間の醜さを最大限に誇張したようなシーンに、胸がえぐられます。

病めるときも

短編集の表題にもなっている物語。あまり本を読んで泣くことないんですけど、これは涙を止められませんでしたね。

結核の薬の研究をする克彦にであった明子。そんな折に明子は結核になり、克彦に婚約の解消を申し出ますが克彦はそれを断ります。むしろ克彦には結核の研究に今まで以上の使命感を負うようになりました。

明子は結局自然治癒して、一方で彼の研究に対する熱は3年という年月すら忘れさせるほどの進捗でした。長い苦労の末ようやく成功した克彦の研究、なんと残酷なことか翌日に研究室が火事で焼失します。

そのショックから克彦は重篤な精神病を患うことに…。

「健やかなる時も、病める時も、汝夫を愛するか」という愛を誓う言葉の厳しさを問う、代表的作品の一つになるのではないでしょうか。

ライター
谷口有威
HITOMAGA管理人。本業のかたわら、ブロガー&ライターやってます。コーヒーとカフェがとても好き。写真は5年くらい撮っています。岐阜-一宮-名古屋が主な活動範囲です。
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